あれはまだ石子が小学生だった頃のことである。
男まさりだった彼女は女子のおしとやかな遊びには上品すぎてついていけず、むしろ男子と一緒に近所の空き家に潜入したり、相撲をとったり、将棋を指したりするような極めて荒々しい遊びの方がすこぶる楽しかった。
しかし、相手は男子である、彼らは時に男のメンツを保つために本気の戦いをすることがあった。
男が己のメンツをかけてメンチきってやりあう『男のケンカ』である。
相手が女だからといって容赦はしない。というよりも彼らは石子を女子としてみていなかった。むしろいっぱしの男としてつきあっていたので、ぶつかるときもそれなりの理由があった。
その時は石子が面白半分でグループのガキ大将であるヤスオの好きな女の子の名前をみんなにばらしまくったことによってヤスオの怒りを買い、果し合いをするため、学校の裏手にある空地に呼び出されたのであった。
ヤスオは石子に向ってこう言い放った。
『おい、石子、てめぇどうなるかわかってんだろうな』
石子は負けじと言い返す。
『好きな女の名前知られたくらいで、ギャーギャー言ってんじゃねぇぞ!女の腐ったのみてぇな言いがかりしやがって!おめぇの魂叩き直してやる!来い、この野郎!』
実は石子には秘策があった。頭に血が上ったヤスオは石子に踊りかかっていった。一方の石子は身じろぎもせず、何かを待っているかのようだった。
ヤスオが石子の間合いに入った瞬間、石子の大きな両手がヤスオの側頭部をはさみあげたかと思うと、ヤスオの顔面めがけて石子のこれまた大きな頭が弾丸の速さで激突した。
ヤスオは声にならない悲鳴をあげるとやがて大きな声で泣き出した。
石子のド根性がヤスオの魂を叩き直したのである。
石子はうずくまるヤスオを見下ろしながら極めて解説風に思った。
『私の頭は硬いなぁ、まるで石のようだ。もしかしたら石の化身なのかもしれない、あれ。私の名前は石子だぞ。ははぁ。なるほど。わかったような、わからないような。けど、石子という名前が石であったり私であったりするというのもなんだかうなずけるわね。だって多分私は石であってもいいんだもーん』
石子はなにやら足元がくすぐったくなって目が醒めた。
まだぼんやりしているが、なんだか随分と長い間眠っていたような気がしていた。まだ足元がくすぐったい。
ふと目をやると、小さなカップルが自分の脛にマジックで落書き(アイアイ傘)をしていたのである。
『あれ、この人たちは童話の国の人たちかな』
石子は小さい頃読み聞かせてもらった『ガリバー旅行記』を思い出した。しかし、このことから石子はすぐに了解した。
そう、石子はどこかの国にある世界遺産に指定された巨大石仏になっていたのである!
世界遺産に落書きする奴は許さない!石子は怒りに震えながら地面に響き渡る声でそのバカップルを怒鳴りつけた!
『セイブ・ザ・アース!』
石子は長い眠りの中で、自分が自分であるという納得を理解した挙句、大仏に変身した。
我々の人生もまた、なにやら得体の知れない了解を探し続け、そして分からないまま生きていけばいくほど、不思議な『なるほど』感に満ち溢れていくのかもしれない。
だから今日の売れない本の解説も全然わからなくていいのである。
売れない度 99%
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