そもそも『人間関係』という言葉自体、何を指し示しているのか石子には皆目見当がつかなんだ。
よって趣味のトーテムポール作りも目標の108個まであと7個というところで中断されしまったくらい、彼女にとってこの問題は切実であったのだ。
自分の中にある問題を外に見出せるはずはないということもちらと頭をよぎったが、とりあえず何らかのヒントにはなるかもしれないと思い、駅前にある喫茶店のウェイトレスに聞いてみた。
『すいません。ミルクシェーキひとつ』
『申し訳ありません。それは当店では取り扱っておりません』
『じゃぁ、ブレンドでいいや』
『おそれいります。180円になります』
『ねぇ、あたしたちって何関係なの?』
『え』
『店員とお客の関係?それともコーヒー関係?あんたのつり銭を渡す指があたしの手のひらに触れたから肉体関係?あんたと私の間には何があるっていうの?つまりこれって人間関係?』
喫茶店『オイリー』に入って間もない砂美は、自分が今まで抱えてきた問題が今正に眼前にあることに驚愕し、絶句した。
というのも砂美が今の仕事についたのは以前に勤めていた会社での『人間関係』にほとほと愛想が尽きたからだった。
だが、砂美は『人間関係』なるものを築いたとも、築かなかったとも思えなかった。
既に人間はその会社にいたからだ。ところが数少ない友人に会社を辞めた理由を説明するときはきまって『人間関係』のせいにした。
自分が嫌だと思ったのは形があったものなのか、あったとしたら何なのか、あるいは目に見えないものをあたかもあるかのように錯覚していただけなのか。
それについて砂美はうまく言うことができなかったのである。
『ねー、コーヒーまだですかー』
『あっ。すいません』
砂美は本分を忘れていた。彼女はここでは喫茶店のウェイトレスなのだ。
慌てて淹れたコーヒーに自分の顔が映っている。砂美は思った。
私がいないとこの顔も見れないし、この変な人にも会えなかったのか。
時にうんざりしたり、光り輝いたりするのはこれか。
コーヒーを飲み干して眠れなくなった石子はその晩、一気に残りのトーテムポールを彫り上げた。
煩悩の数だけ作られたそれらは翌日の朝に石子自らの手によって全て燃やされた。
売れない度 84%
【人生の最新記事】


