今でこそ景気が悪いせいで行かなくなったが、それこそ仕事が終るとキャバクラへみーんな繰り出したもんなんだ。
昨日は錦糸町、今夜は小岩、明日は浅草なんつってな。
で、売上ぜーんぶ飲んじまうんだ。なんたってお前、古本屋なんて昔は儲かったんだよ。
お前、俺は今、こんな昼飯の蕎麦茹でたり、くしゃみして一日終わっちゃうような仕事に見えっけど、そんなことなかったんだから。
なんつーの、一冊ン万するようなのがバンバン売れたんだ。
ウソじゃねェ。
俺が稼いだのは全部ションベンになっちゃったけど、よそんところのホラ、あの老舗のなんとかって本屋なんかすげーんだから。
羽田空港の大鳥居作ったのあいつだっていう噂があるくらい稼いだってんだからよ、お前。
なぁ、そんでよ。その俺の知ってるキャバレーってのが傑作でよ、『ウラシマ』っていうんだよ。社長の名前も浦島太郎ってんだ。現代の竜宮城だよ、あれは…。さしづめねーちゃん達は亀だな。亀様だ。
ところでお前キャバクラ行ったことあんの?
何、ない?今度連れてってくれよ。
あ?行ったことないから分からないって?
じゃ俺が連れてってやっから金出してくれよ。お前店の前で帰っていいから。
まぁ、いいや。そんで俺が昔行ったキャバクラってのがこれが不思議なとこだったんだよ。
今日はヒマだからその話をしてやるよ。
え?前に聞いたって?うるさい!聞け!
俺が本屋やる前の話でな、その昔、俺は深い山奥で薪を売って暮らしていたんだよ。
その日も握り飯をこさえて薪を切りに行ったんだ。
ずいぶん暑い日でよ。あんまりカンカン照りだったもんだから、俺は腹減ってきちゃって早めにメシにしたんだよ。
ところが切り株に座って握り飯を食おうとしたら手許から転がっちゃったんだよ。
山は急斜面だからさ、そのおむすびもどんどん転がっていくんだよ。
すげー勢いだよ。お巡りが見たらまず捕まえるね。そんくらいはえーんだ。俺は必死で追いかけた。
だって、転がる先に何があるのか知りたいだろ?俺は道歩くときはいっつも下向いて歩いているんだ。
だって空見たって何もありゃしねぇ。たいてい何かあるときは下か前か後ろだからな。
ちょうどこんときは下だったってわけ。
でそのままずーっとおむすびを追っかけていって、ずーっと追っかけていって、まだ転がってんだよ。
ずーっと、ずーっと追っかけていったら、山の麓を過ぎて町ん中に出ちゃった。
俺はそれまで山から一歩も出たことがなかったもんだからどうしていいかわかんなかったよ。
皮肉なことにおむすびはそこで止まった。夢中で追っかけてたときには気づかなかったが、もちろん泥だらけでとてもじゃないが食えたもんじゃない。
がっくりと肩を落としてさぁこの先どうするかと思って、ふと前を見るとゴミ捨て場にたくさん本が捨てられていたんだよ。
手にとって見たらお前、ビジュアル満載だよ。
よっぽど普段の行いが良かったんでしょうな。
おお、こりゃ勿体無いと思ってな。今から山に戻るのも無理だし、このまま本をどこかに隠して、そんでなんとか食いつなごうと思ったらいつの間にかこうなっちゃってた。
えっ?キャバクラの話はどうなったかって?
何言ってんだ、さっき言ったじゃねぇか、お前の金で行くんだよ!
お前の『時』はそりゃ、俺がこないだ貸したもんだ。
売れない度 97%
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